2024年ノーベル物理学賞は「AI」研究者に

2024年12月24日
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2024年ノーベル物理学賞は「AI」研究者に

2024年10月8日(日本時間2024年10月9日)、スウェーデン王立科学アカデミーは、2024年のノーベル物理学賞を2人の研究者に授与することを発表しました。

1人は米国プリンストン大学のジョン・ホップフィールド名誉教授、もう1人はカナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授。授賞理由は「人工ニューラルネットワークによって機械学習を可能にする基礎的な発見と発明について」(for foundational discoveries and inventions that enable machine learning with artificial neural networks)でした。

人工ニューラルネットワーク、すなわち人工知能(AI)に関する研究が物理学賞を受賞したことは、多くの人々に驚きをもって迎えられました。今回のコラムでは、ノーベル賞公式サイトである「THE NOBEL PRIZE」を引用しながら2024年ノーベル物理学賞を振り返り、AIの本質とは何か?を考えていきます。

▼The Nobel Prize in Physics 2024-Press release(THE NOBEL PRIZE)

https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2024/press-release/

AIによる電力コスト削減システム「AIrux8」
AIによる電力コスト削減システム「AIrux8」
AIrux8は、様々なIoT機器をAI自動制御する為の集中コントローラー装置です。電力消費を実状況に合わせ適正値に自動制御したり、人の混雑状況に応じて環境を最適化することも可能です。

 

ブームと冬の時代を繰り返してきた人工知能(AI)

ブームと冬の時代を繰り返してきた人工知能(AI)

[図1:人工知能(AI)の歴史]

出展:ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究-平成28年3月(総務省)(PDF)

人工知能(AI)の歴史を見ると、新しい発見や開発が行われ、研究が盛んに行われる「ブーム」と、研究・開発の壁にぶつかり、進展に陰りが見られる「冬の時代」を繰り返してきたことがわかります。これまでの人工知能研究の歴史を振り返ります。

 

第一次人工知能ブーム~人類と機械の知能の出会い~

1956年、米国の計算機科学者ジョン・マッカーシーによって「人工知能」が提唱された後、第一次人工知能ブームが起こります。1958年には米国の心理学者・計算機科学者フランク・ローゼンブラッドが「パーセプトロン」と呼ばれる人工ニューラルネットワークを発表し、1960年代には人間の推論や探索に関する研究が活発に行われました。しかし当時の計算機の性能は低く、実用化には多くの課題があったことから、冬の時代を迎えます。

 

第二次人工知能ブーム~知識と推論の黄金時代 ~

第二次人工知能ブームは、1980年代に起こります。コンピューターが高性能化し、1970年代に開発された「エキスパートシステム」と呼ばれる、特定の専門分野の知識を持ち、専門家のように事象の推論や判断ができるようにしたコンピューターシステムにより、研究開発が活発化しました。

また、1986年には多層ニューラルネットワークの学習法として「誤差逆伝播法」が開発され、画像の認識においては畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が多層ニューラルネットワークの学習に成功するなど、重要な進展が相次ぎました。しかし、エキスパートシステムにおいては複雑な問題への対処や使用するには多大な労力をかける必要があるため課題があり、多層ニューラルネットワークにおいては訓練時の学習データでは良い結果が出ても、未知のデータに対しては十分な結果が得られない「過学習」が壁となり、研究は下火になっていきます。

 

第三次人工知能ブーム~今、AIが世界を変える時代へ ~

インターネットが全世界で広く普及し、コンピューターの性能も飛躍的に向上した2000年代、ニューラルネットワーク研究ではこれまでの課題が克服され、機械学習が進化しました。現在も続く第三次人工知能ブームが起こります。

2006年に今回のノーベル賞受賞者である計算機科学者ジェフリー・ヒントンがニューラルネットワークの多層化に成功したことをきっかけに、ディープラーニング技術が盛んに研究され、画像認識や音声認識の分野でこれまでにない成果を収めるようになりました。そして、コンピューターが人間の言葉を解釈し、処理や分析を行う自然言語処理の分野でも著しい成果を上げ、画像・音声・言語の分野を中心に今日の生成AIの活用につながっています。

▼令和6年版 情報通信白書 第1次~第3次AIブームと冬の時代(総務省)

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd131110.html

 

2人のノーベル賞受賞者の功績

今回のノーベル物理学賞を受賞したジョン・ホップフィールド、ジェフリー・ヒントンの2氏は、主に1980年代以降に研究・開発した成果が評価されての受賞となりました。第二次人工知能ブームの課題を克服し、今日の爆発的なAIの発展を築いた土台に、2人の成果があります。

 

ジョン・ホップフィールド-人間の「思い出す」プロセスを再現した「連想記憶」を実現

ジョン・ホップフィールド

[図2:ジョン・ホップフィールド]

(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad /)引用元

2024年のノーベル物理学賞を受賞した1人である米国の物理学者・生物学者ジョン・ホップフィールドは、人工ニューラルネットワークによって人間の「連想記憶」を実現することを成功させました。連想記憶とは、人間が不確かな情報から何かを思い出そうとするときに、一連の記憶のつながりをたどる中で目的の情報を探る様を指しています。1982年、ジョン・ホップフィールドは「連想型ニューラルネットワーク」と呼ばれる「ホップフィールド・ネットワーク」を発表しました。

 

ホップフィールド・ネットワークとは

ホップフィールド・ネットワークとは

[図3:ホップフィールド・ネットワークとは]

(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad /)引用元

ホップフィールド・ネットワークは、もともとは物性物理分野での別の目的のために作られたものでした。物質は原子で構成されていますが、原子にはスピンと呼ばれる、互いの原子を小さな磁石とみなすような属性(磁性)があります。物質中の原子はスピンによるエネルギーを最小化するような安定的な状態へ向かうことから(スピングラス理論)、ホップフィールドは、物質の安定的なエネルギー状態を求めるネットワークを構築しました。

一方でこの仕組みは、ニューラルネットワークにおけるニューロンの状態やニューロン間結合の強弱にも当てはめることができ、やがて人工ニューラルネットワークでの画像認識に応用されるようになりました。

ホップフィールド・ネットワークでは、画像などのデータの中にあるパターンを蓄積し、改造することができます。ネットワークに不完全でゆがめられたパターンを入力すると、蓄積されたパターンの中から最も似通ったパターンを見つけることができます。

~図3の説明(日本語訳を含む)~

“記憶は山や谷が連なった地形の中に蓄積される”

ジョン・ホップフィールドの連想記憶は、地形を形作るのとよく似た方法で情報を蓄積します。

ネットワークが訓練されたとき、ネットワークは仮想のエネルギー地形の中にパターンごとに谷を作ります。

1.訓練されたネットワークが、あるゆがんだ、または不完全なパターンを与えられるとき、ネットワークは地形の中にある斜面にボールを落とすことにたとえられます。

2.ボールは、上り坂に囲まれた場所(谷底)に到達するまで転がります。これと同じような方法で、ネットワークはエネルギーレベルがより低い方向に向けて道を作り、蓄積されたパターンの中で最も近いものを見つけ出します。

”谷底”は、エネルギーの極小値(周囲に比べて小さい値)を表しています。エネルギーの極小値が、求めていたパターンに最も近いものを提供します。

ジェフリー・ヒントン-人間の脳の仕組みを元にして現代AIの基礎を築いた

ジェフリー・ヒントン

[図4:ジェフリー・ヒントン]

(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad /)引用元

2024年のノーベル物理学賞を受賞したもう1人であるカナダの計算機科学者であるジェフリー・ヒントンは、1985年、ホップフィールド・ネットワークを活用した新しいネットワークの土台となる「ボルツマンマシン」を開発しました。ボルツマンマシンでは、統計物理学の考え方が用いられています。

 

ボルツマンマシンとは

ボルツマンマシンとは

[図5:ボルツマンマシンとは]

(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad /)引用元

統計物理学は、微小な粒子など多数の似通った要素から構成された系の巨視的な性質や物理量を、確率を用いて統計的に記述します。ボルツマンマシンは、統計物理学の中でも特に、理想気体が熱平衡状態において最も確からしい状態を表す「ボルツマン分布」を用いて、与えられたデータのパターン型について特徴的な要素(規則性や動作)を学習します。それによって画像の分類や訓練されたネットワーク上で新しいパターン型の事例を作ることができるようになりました。

しかし、ボルツマンマシンは計算が複雑になり、データ処理に時間がかかりました。2000年以降、ジェフリー・ヒントンは、可視ノード層・隠しノード層で同一層のノードどうしで接続がない「制限付きボルツマンマシン」を開発し、多層ニューラルネットワークの実現のきっかけを作りました。その研究開発が、今日のディープラーニング(深層学習)の爆発的な発展につながっています。

~図5の説明(日本語訳を含む)~

タイプの異なる(3つの)ネットワーク

ジョン・ホップフィールドの連想型ニューラルネットワークは、すべてのノードがお互いにつながっているように構築されます。情報はすべてのノードに入力され、すべてのノードから読み出されます。

ジェフリー・ヒントンのボルツマンマシンは、「可視ノード」と「隠しノード」の2つの層で構成されます。情報は「可視ノード」を使って入力され、読み出しされます。可視ノードは、隠しノードと接続しており、隠しノードはネットワーク全体に対して影響を与える働きを持っています。

接続が制限されたボルツマンマシン(制限付きボルツマンマシン)では、可視ノード層・隠しノード層ともに、同一の層にあるノードどうしでは接続がありません。制限付きボルツマンマシンは、単一の鎖の連鎖として連なって使用されます。最初の制限付きボルツマンマシンが訓練された後、隠しノードの内容が次の制限付きボルツマンマシンの訓練に使われます。

 

人間の脳からデザインされた人工ニューラルネットワーク

人間の脳からデザインされた人工ニューラルネットワーク

[図6:人間の脳からデザインされた人工ニューラルネットワーク]

(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad /)引用元

人工ニューラルネットワークは、脳における生物学的なニューロンをまねてデザインされています。「ニューロン」はノードの集合体、「シナプス」は重みを付加した結合として、それぞれ表現されています。ある課題を解くために、人工ニューラルネットワークは、ネットワーク構造全体を使って情報を処理します。人間の脳の仕組みを理解したいとの願望が、今日の研究の発展につながっています。

~図6の説明(日本語訳を含む)~

脳のニューラルネットワークは、高度な内部機械である生きた細胞、ニューロンから作られます。ニューロンはシナプスを通して互いに信号を送り合います。私たちが何かを学ぶとき、いくつかのニューロン間の接続は強くなり、その他のニューロン間の接続は弱くなります。

人工ニューラルネットワークは、0または1で符号化されたノードから作られます。ノードは互いに接続され、ネットワークが訓練されたとき、同じタイミングでアクティブなノード間の接続はより強くなり、そうでないノード間の接続は弱くなります。

 

まとめ

人工知能(AI)は、人間の脳を理解したいとの願望から始まり、人工ニューラルネットワークの研究の歴史の中で、生物学に着想を得て、物理学の力を借り、幾度もの課題を克服しながら発展してきました。また、発展の背景にはインフラやハード面の進化もありました。

AIは人類にとって新しい優秀な道具となり、すでに科学・工学、そして日常生活の中で様々な革命を起こしています。物理学賞の翌日に発表された2024年ノーベル化学賞では、AIでタンパク質の構造の予測に成功した研究者ら3人が選ばれました。

▼The Nobel Prize in Chemistry 2024(Press release)

https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2024/press-release/

一方でジェフリー・ヒントンは2023年に10年間務めたGoogleを退社し、AIの危険性について警告を発しています。未来に向けて、AIをどのように使っていくことができ、それが危険な道具となるか、有用な道具となるかは、私たちの選択にかかっています。

▼AI界の“ゴッドファーザー” ヒントン博士の警告(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2023/05/15/31594.html

 

ムダな電力削減 「AIrux8」の技術

AIrux8導入前の課題と導入後の効果

[図7:AIrux8導入前の課題と導入後の効果]

目の前の電気代を抑えるだけでなく、CO2などの温室効果ガスの排出を削減し、地球温暖化を抑えるためにも、無駄な電力使用を控え、人も企業もよりクリーンな活動を行うことが求められています。

当社のAIによる電力削減ソリューション「AIrux8」は、国内外で電力削減を実証してきました。

【省エネ事例紹介】電力削減29.6%を実現 株式会社クレア慶徳工場へのAIrux8の導入結果

https://www.tranzas.co.jp/column/airux8_creare_casestudy01/

2024年5月9日にはAIrux8の技術が日本で特許として登録され、AIrux8の技術は国内でも唯一無二のソリューションとなりました。今後も引き続き、日本国内での導入を進めていきます。

▼AI電力削減ソリューション「AIrux8」の技術が日本で特許として登録

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000062901.html

AIによる電力コスト削減システム「AIrux8」
AIによる電力コスト削減システム「AIrux8」
AIrux8は、様々なIoT機器をAI自動制御する為の集中コントローラー装置です。電力消費を実状況に合わせ適正値に自動制御したり、人の混雑状況に応じて環境を最適化することも可能です。

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